在学生・修了生の声(下田 英雄さん)
ノリタケカンパニーリミテド開発技術本部に勤務する下田英雄さんは、カーボンナノチューブを利用したフィールドエミッションディスプレイ(FED)の開発に携わっておられます。「JAISTで学ばなければ、現在の道には進んでいなかった」と語る下田さんに、在学中の経験や現在のご自身についてうかがいました。
実力勝負の研究環境が今の自分を育ててくれた
JAIST入学で出会った新しい研究テーマ
カーボンナノチューブは独特な筒状の分子構造を持ち、電圧をかけると電子を放出する性質があります。当社では、画素となる蛍光体に電子をぶつけて発光させるFEDにその性質を取り入れて、実用化するための技術を開発しており、私はそのプロジェクトにカーボンナノチューブの研究者として参加しています。
私がカーボンナノチューブに出会ったのは、JAISTに入学してからのことでした。大学時代は、分子構造などを解析する分子動力学法を専攻していましたが、師事していた教授の退官に伴って、大学院では別の課題に取り組もうと考え、予算や設備が充実していたJAISTに進んだのです。入学後、所属した研究室の三谷忠興先生から、「研究者として身を立てたいなら、地球規模の大きな視点でテーマに取り組みなさい」と助言されただけでなく、岩佐義宏先生の下で、当時注目されていたフラーレンの研究をするように勧められました。同時にサブテーマとして、フラーレンとは同素体の関係にあるカーボンナノチューブも研究するようになったのです。
在学中の一九九八年には、カーボンナノチューブ研究で知られるノースカロライナ大学で二ヶ月間の研修を経験しました。その際に、先方が私に目をかけてくれたらしく、修了後にポストドクター就任のお誘いをいただいたのです。三谷・岩佐両先生の後押しもあって、私は再びアメリカに渡り、ノースカロライナ大で、従来のサンプルよりも純度の高いナノチューブの精製に成功しました。学部生時代は、自分が海外に出ようとは夢にも思っていませんでしたから、JAISTでの先生や研究テーマとの出会いが、現在の私を導いてくれたことに感謝せずにはいられません。
実力を試された五年間で研究者として成長
JAISTで過ごした五年間で感じたのは、この大学では学生の本当の実力が問われるということです。まだ歴史の浅い大学ですから、大学の名前自体にそれほどの権威はありません。しかし、研究にかける予算や設備は充実していて、個々の学生が真剣に取り組めば、有名大学の研究者に負けない成果を挙げるチャンスがいくらでも与えられています。
JAIST時代の私は、参加する学会で毎回欠かさず発表することを心掛けていました。おかげでほかの研究者に名前を覚えてもらえ、研究と向き合う上での強い心構えが築けたからこそ、実力主義の色濃いアメリカの大学でもやっていけたのだと思います。私は研究成果をビジネスや社会に役立てることで、初めて研究者としての自分に価値が生まれると感じはじめています。アメリカでは、ポスドクとして三年間勤務したあと、ノースカロライナ大の先生が設立したナノチューブ関連のベンチャー企業に参加しました。三年前に帰国した際の就職先に今の会社を選んだのも、ナノチューブの実用化に本気で取り組む姿勢を感じたからです。
JAISTで成果につながる研究に必死で取り組んだ経験がそうした考え方に影響しているのでしょう。今後は財務なども勉強して、ビジネスにおける知識や感覚を兼ね備えた研究者を目指していきたいですね。
(掲載内容および所属・役職はインタビュー当時のものです)
下田 英雄さん
材料科学研究科 物性科学専攻
博士後期課程 2001年修了